2008年3月18日
『甘い川』を意味するドゥルセ川。35キロにわたるその堂々たる流れは、イサバル湖とカリブ海に面する港町リビングストンをつなぐ。この川が織り成す美しい景観により、この地は多くの観光客が訪れるグアテマラ屈指の観光スポットとなっている。しかし先月、私たちの理解を超える争いがこの地域で起こったのだった。争いの根本をたどっていくと、今日のグアテマラ国内事情に潜む重苦しい真実が浮かび上がってくる。
「この争いの根本には、土地の利用を巡る複雑に絡み合った経済的利害が存在する。共同体の存続に欠かせない最低限のニーズを求めるとき、この地域は環境保護エリアや観光プロジェクトといった壁にぶつかるのだ。鉱山活動や家畜の飼育、(バイオ燃料用と思われる)アフリカ椰子栽培のための農業開発を巡る強力な利害関係もまた、地域にとって重要な鍵を握る。政権が変わろうとも争いの元は常に農地問題であり、その解決策が早急に求められるイサバル県において、これは数多くある対立の1つに過ぎない」(1)
3月15日、警察と軍の合同部隊が農民組織『エンクエントロ・カンペシノ』に加盟する共同体を襲撃した。ラ・エンセナダ・プンタレナス集落に対し行われた襲撃は、政府治安部隊による地元農民リーダー・マリオ=カール=ボロムの超法規的処刑という悲劇的結末を迎えた(遺体発見当時のマリオ=カールの写真。反帝国主義ブロックによる撮影)。(2)
警官29名及びベルギー人観光客4名が拘束されるという事件が先月起こった。これは、土地所有権の法的認定及びラミロ=チョック(『エンクエントロ・カンペシノ』のリーダー)の解放を求めるマヤ系先住民ケクチの人々によるものであった。命がけのこの行為は明らかに違法であり、ますます追い詰められる先住民共同体の窮状を露わにした。チョックは土地所有権の侵害で訴えられているものの、検察側、チョック側共に相手側の不正行為の数々を主張しており、この事件についても司法制度を通した解決が必要とされる。しかしながら、政府治安部隊による地元農民に対する超法規的処刑は、明らか且つ直接的な人権侵害に他ならない。
「ラミロ=チョックという人物と、チョックが関与したとされる犯罪行為を中心に据え、メディアも政府もイサバル県における対立を取り上げている。しかし、必要なのは争いの構造的要素に目を向けることである。第一に、国及び地域レベルにおいて土地と富の平等な分配がなされていないことが挙げられる。国土の2%のみを所有する地主が実際にはその62.5%を支配する一方で、(イサバル県の先住民農民を含む)人口の94%には、国土のたった18.6%の利用しか認められていない。そんな国において、深刻な対立、しかも暴力的な争い以外に何が期待できよう?」(3)
マリオ=カール=ボロムの通夜と埋葬が行われる間、この地域が抱える問題や共同体で発生している暴力的事件について、ラ・エンセナダ・プンタレナスの住民がそれぞれの体験や考えを話し合った。
「私たちはこの土地を奪ったり占領したりなどしていません。私たちは、共同体があるこの土地を先祖から代々受け継いできました。ここは、先人たちが命を懸けて守り、後の世代に残してくれた場所なのです。政府はまるで私たちが土地を占拠したり無理やり奪ったかのように言っています。それはなぜなのでしょう。いや、それがラ・エンセナダ・プンタレナスの歴史の一部なのでしょう。ラ・エンセナダ・プンタレナスが共同体として登録を受けたのは、1940年2月21日のことでした。それを示すファイルがここにあります。自然保護区審議会(CONAP)と自然保護センター(CECON)にも写しがあります。こういった記録があるにも関わらず、政府は私たちを他人の土地に侵入した不法占拠者扱いするのです。恐らくこのような方法で、政府は農民に土地を与えないようにしているのでしょう」(4)
「皆さん、私たちの共同体には歴史もあれば事実を記した記録もあります。私たちは昨日今日できた農民グループではないのです。隣人や仲間たちの血が流されていることに心を痛めています。グアテマラ政府がその責任を認めることを願っています。私たちの同志マリオは家族を残し、子供を残し死んでいきました。彼にはたくさんの責任があったのです。この先誰がマリオの家族をやしなっていくのですか?残された子供たち、奥さんは一体どうしたらよいというのでしょう?」(5)
「警察と軍部は共同体に乱暴に突入してきました。家々に押し入り、窓を叩き割り、女性たちに酷い行いをしました。[政府治安部隊は]拘束されていた[ベルギー人観光客]がここにいると思い込んでいたのです。でもそれは間違いでした。私たちは事件への関与をはっきりと否定していたのです。なぜ平和裏にここを訪れ、対話から始めようとしないのでしょうか?グアテマラ人権オンブズマン事務所職員ですら暴力を受けています。グアテマラ政府が行っているのは酷い不当行為なのです」(6)
29歳だったマリオ=カール=ボロムは、『開発のための共同体委員会』の教育委員の1人だった。
共同体のメンバーがマリオの遺体が納められた棺を担ぎ墓地へと向かい、マリオの家族が悲痛の声を上げる。その中には、マリオの母の姿も見られた。
目撃者によると、マリオ=カールの死は事故の結果ではなく、国家警察隊(PNC)のメンバーによる『超法規的処刑』であったという。国家警察隊は、マリオが共同体のリーダーであったこと、またスペイン語の能力が高かったことを知っていた(注・マヤ系ケクチの人々の多くが話すスペイン語はごく限られており、中にはスペイン語を全く話さない人々もいる)。また、『エンクエントロ・カンペシノ』に属する近隣共同体クリーク・マヤで拘束されていた29名の警察が2月末に解放された際、マリオは監視役をしていた。共同体住民はこれらの事実を鑑み、治安部隊は以前からマリオの動きに注視しており、よってマリオの死は決して事故などではなかったと確信するに至ったのだった。(7)
「この国の歴史を振り返るのは私たちにとって非常に辛いことです。今回の事件で、[36年間にわたる]内戦が始まった経緯がこれでもかというほど思い出されます。過去に起きた内戦。そして今日もまた、その恐怖がよみがえってきます。皆さん、私たちの同志であり、仲間そして兄弟であるマリオに国家警察隊のメンバーが虐待を加え、その首を絞め、さらには証拠隠滅のために至近距離から遺体に催涙ガスを浴びせたことを考えると、もうどうしていいのかわからなくなってしまうのです」(8)
「私たちが物事をよく考える脳もない愚か者だと思われますか?皆さん、もしそう思われるのなら、それは大きな間違いです。確かに私たちは貧しく、慎ましやかに暮らす農民にすぎません。しかし決して愚か者ではないのです。ここプンタレナスの土地に暴力を持ち込んだ国家警察隊と軍部に関する正確な情報を政府が提供してくれることを切に望みます。誰もがその責任から逃れようとしているわけですから、簡単にはいかないことは分かっています。それでもなお、私たちの政府に情報提供能力があることを願わずにはいられないのです」(9)
事件の詳細が明らかになるにつれ、情報はますます交錯していった。内務省、大統領府、人権オンブズマン事務所それぞれに異なる見解を発表したためだ。内務省はベルギー人観光客の解放が問題なく成功したとしながら、マリオ=カールの死及びベルギー観光客の解放が不当に拘束された農民を引き渡すことで行われたことを否定した。(10)
これに対し、大統領府と人権オンブズマン事務所の両者は、政府治安部隊がラミロ=チョックの妻を含む3名の農民を逮捕したこと、この逮捕が正式な逮捕状の発行なしに行われ、最終的に3名を引き渡すことでベルギー人観光客が解放されたことを認めている。(11)
「リビングストンのプンタレナス集落にいた人権オンブズマン事務所のメンバー・ロランド=ヨックは、マリオ=カールの死が『超法規的暗殺』であったと公に言明している。遺体発見現場では、共同体メンバーが地方検事事務所職員の到着を待ち、発見当時のまま19時間にわたりカールの遺体に付き添っていた。しかし地方検事事務所から遺体発見現場に向かう者は誰一人としていなかった」(12)
「プンタレナス住民の心は完全に踏みにじられました。今もなお、私たちは恐怖に慄きながら生活しているのです。沿岸警備隊のボートがスピードを上げる音が聞こえたり警官の姿を見かけたりすると、住民はジャングルに逃げ込み、隠れなくてはならないと感じているのです」(13)
「まるで死刑宣告を受けたかのような気持ちです。私たちは皆、出口のない道に立たされているのです。逃げ道はどこにもありません。毎日『選択』というものが私たちの手から奪われていくのです。抑圧の日々が終わることもありません。警察が殺人者であるとき、一体誰を信じろというのでしょう?こんなことは軍事政権下だけの出来事だと思っていました。例えば1982年のように。これを受け入れることなど到底できません。自分たちの生活と安全を考えると不安だらけです。歴史が正しい判断を下すことを信じます。正義の達成を、そして真実が下す判決を望んでいるのです」(14)
「今日まで続くこの争いにおいて、政府のみが殺害行為を犯してきたのです。[警察とベルギー人観光客の拘束のような]絶望から生まれた行為は、正義の不在、貧困、土地問題にその原因があるということを理解しなくてはなりません」(15)
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Versión en español aquí
1. レイノスズ=ルイーサ 『Izabal es nuevamente escenario de conflictividad agraria』 インフォプレス・セントロアメリカ誌 1742号 2008年2月29日
2. ペルドモ=エドウィン 『Izabal: Controversia por campesino muerto durante la incursión de la fuerza pública』 プレンサ・リブレ紙 グアテマラ 2008年3月17日 (http://www.prensalibre.com/pl/2008/marzo/17/226849.html)
3. カバナス=アンドレス (http://www.albedrio.org/htm/articulos/acabanas-079.htm
4. ラ・エンセナダ・プンタレナス市長補佐とのインタビュー 2008年3月18日
5. ラ・エンセナダ・プンタレナス住民1(匿名希望)とのインタビュー 2008年3月18日
6. 同上
7. ラ・エンセナダ・プンタレナス住民2(匿名希望)とのインタビュー 2008年3月18日
8. ラ・エンセナダ・プンタレナス住民3(匿名希望)とのインタビュー 2008年3月18日
9. 同上
10. 『No hubo canje de capturados por rehenes, asegura ministro de Gobernación』 プレンサ・リブレ紙 2008年3月18日 (http://www.prensalibre.com/pl/2008/marzo/18/227321.html)
11. 『Secuestradores canjean a turistas por campesinos』 エル・ペリオディコ紙 グアテマラ 2008年3月16日 (http://www.elperiodico.com.gt/es/20080316/pais/50586/)
12. 同上
13. ラ・エンセナダ・プンタレナス住民4(匿名希望)とのインタビュー 2008年3月18日
14. 同上
15. グアテマラ人権組織メンバー(匿名希望)とのインタビュー 2008年3月20日